ロスと彼女のチームは、写真に映っている衣装をまねるのではなく、あくまでインスピレーションとして活用するに留めた。特にグラハムの当時の服装は、リーダーとしてのスキルを発揮していく彼女には不釣り合いともいえる控えめなものだった。グレッグ・ハーケンの著作「The Georgetown Set: Friends and Rivals in Cold War Washington(ジョージタウンのセット:ワシントン冷戦における友情とライバル関係)」や、C・デヴィッド・ヘイマンの著作「Georgetown Ladies Social Club: Power, Passion and Politics in the Nation’s Capital(ジョージタウンの女性たちの社交クラブ:首都ワシントンD.C.における力関係、情熱、駆け引きについて)」などの書籍を参考に、ロスはリサーチ結果と彼女が持つ感性と知識をうまく融合させ、ストリープと密に話し合いを行うことでグラハムの衣装をデザインした。グラハムが退職パーティーで着たカフタン風ドレス、役員会でのスーツ、証券取引のために選んだ服などの衣装は、実際に彼女が着用した物をベースにしているが、それ以上の要素を付け加えている。

ストリープはロスの衣装を絶賛する。「アンはとにかく天才的なデザイナー。『シルクウッド』(83)に始まり、彼女とは多くの作品で一緒に仕事をしてきたわ。キャサリンについては資料が多く保存されていたけど、私たちは彼女をどう表現するのかを何度も話し合った。彼女はとても背が高かったから、どこか貴族のような上品さを兼ね備えていたの。内気な部分がありながらも、周囲には時に威圧的な態度を取っていた。そういった彼女の特徴を反映するために努力したわ。私は背が低いから、背を高く見せる工夫も必要だった」

一方、ハンクス演じるブラッドリーについては、後に粋なスタイルで知られるようになったものの、1971年当時はまだ定着していなかったとロスは説明する。「当時の彼は、ハーバード時代を彷彿とさせるような両家の子息っぽいファッションだった。ウォーターゲート事件以降になってから、イギリス紳士のようなスタイルに変わるの」
「トムがベンに成りきる上で、アンは大いに貢献したと思う。彼女が選んだ衣装は、ベンの虚勢的な部分をうまく表しているわ。衣装によってトムの演技も変わっていった」

ブラッドリーの部下の衣装については、ピューリッツァー賞受賞ジャーナリストで本編にもキャラクターとして登場しているユージーン・パターソンがエモリー大学に寄贈したアーカイブ写真を参考にした。「1971年当時、社員がどのような服を着ていたか明確に知ることができた。おかげで当時の衣装を可能な限り正確に再現できたし、それこそスティーヴンが求めていることだった」とロスは語る。

ロスの衣装と彼女が持つ当時の知識は、キャストが役を演じる上で大きな手助けとなった。アリソン・ブリーは次のように締めくくる。「アンは生ける伝説で、現場の全員が彼女を大好きになったわ。彼女は率直で、70年代を知っている人。私が着た衣装の中には彼女の私物もあって、靴やドレスを身につけたの。アンの手がける衣装は類似品なんかじゃない。俳優にとって大きな意味を持つ本物のファッションよ」