撮影現場を訪れたクインは、ブラッドリーに完全に成りきったハンクスの様子に深く感情を突き動かされた。「ベンに扮するためのウィッグをかぶってセットにたたずむトムを見た時、彼が全力で役に取り組んできたことが分かった。ベンのどこか自信過剰な態度やあごを突き出すくせなど、トムの動きはベンそのものだった。だから、私はすごく感情的になってしまったの」とクインは振り返る。「思わず泣き出してしまった私を見て、スティーヴンが駆け寄って私の体に腕を回してくれた。その後メリルとトムも来てくれたの。私はトムのがっしりした胸に顔をうずめて泣いたわ。まるでベンに抱かれているみたいで、思わずトムに『ベンが生き返ったみたい』と言ったの」

ストリープと同じくハンクスも、ブラッドリーとグラハムの、恋愛感情ではなく互いへの敬意のもとに築かれた友情を表現することに関心があったという。「文書をめぐる騒動の中で、ベンはキャサリンに対して好意を抱いていくし、リスクを取った彼女の勇気に対して尊敬の念を感じるようになる」とハンクスは説明する。「決断を下すのは彼女だったし、全ての重責が彼女にのしかかっていた。キャサリン・グラハムが伝説になった瞬間だ。キャサリンが直面していたリスクや疑念を考えると、彼女が『記事にする』と言った時にはベンは本当に安堵したはずだ。そして、彼女に心から感心したと思う」

ブラッドリーとグラハムという伝説的人物をストリープとともに演じたことは、非常に強烈な体験だったようだ。「ベンとキャサリンのシーンで、これまでの現場で経験したことがないような緊張感あふれる撮影があった。メリルが素晴らしいのは、どんな演技をしても必ず反応してくるところで、しかも事前に決めたことではなく即興なんだ。彼女は共演者を決められた演技に誘導するのではなく、最高の演技をその場で一緒に引き出そうとする。素晴らしい現場だった」とハンクスは語る。

スピルバーグとハンクスは『プライベート・ライアン』(98)、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02)、『ターミナル』(04)、『ブリッジ・オブ・スパイ』(15)でのコラボレーションを通してすでに強い絆を構築しているが、それでもハンクスはスピルバーグに常に驚かされるという。「スティーヴンは作品のテンポやシーンの意味を完全に把握しコントロールしている」とハンクスは説明する。「僕が重要だと思ったシーンを無視して、逆に重要だとは思わなかったシーンにフォーカスするんだ。例えば、ある場面ではもっと語気を強めるように言われ、別の場面では自信がありすぎると助言された。彼は完璧に作品を理解し、コントロールすることができる」

スピルバーグもハンクスについて次のようにコメントを返す。「トムが私の監督作品に出演するのはこれで5作目だが、トムは毎回私を驚かせるよ。今回は今まで見たことがない演技を披露してくれたし、彼自身の解釈によるベン・ブラッドリー像を目撃できたのは素晴らしい体験だった」