作家としても活躍しているトム・ハンクスにとって、ブラッドリーの世界の複雑さを徹底的に追求することは喜ばしい挑戦だったようだ。ハンクスは綿密にリサーチを行い、可能な限りブラッドリーを知る人物から話を聞いた。「彼の自叙伝に書かれていること以外にも、ベン・ブラッドリーに関する情報はたくさんあった」とハンクスは語る。「ベンのインタビュー映像もたくさんあった。何よりも、彼の妻のサリー・クインや彼と仕事をした記者など、多くの人に話を聞くことができてよかったよ。サリーとは、ベンの性格や彼の好きなところ、そしてワシントン・ポストに何を捧げていたのかについて話し合った。ベンに関する情報が多く集まりすぎて、全てを映画に反映できないことに苛立ちを感じるまでになったほどだ」

自身も新聞記者であり、1978年にブラッドリーの3人目の妻となったクインは、ハンクスとのミーティングをこう振り返る。「トムとは朝食の席でベンの話をした。その時、私は彼にこう言ったわ。『あなたにはベンと同じ素質がある。あなたも彼も自分に正直で本物だわ。それはうわべだけでは決して取り繕えない』とね。それは本質的な資質で、その信ぴょう性なしにはベンを演じることはできない」

しかし、ブラッドリーを演じることには落とし穴もあった。名作『大統領の陰謀』(76)でジェイソン・ロバーズがブラッドリーを演じており、皆はこの作品の中のブラッドリーを頭に思い浮かべてしまうからである。ハンクスはロバーズの演技に敬意を表しながらも、違った角度からブラッドリーを演じたかったと語る。「すでにジェイソンがブラッドリーを演じていたから怖くはなかったが、自分独自のアプローチを見つけるという課題に挑む必要があった。だから、まだあの作品で描かれていない要素を探した。そこで、彼を知る人が強調していた、ベンの編集室の取り仕切り方に注目したんだ」

「ベンには明らかにジャーナリストとしての素晴らしい才能があったけど、彼は周りの人の意欲を引き出すのもうまかった。スタッフを甘い言葉でおだてるのではなく、彼らを前進させたんだ。彼は記者という仕事を愛していたが、特に自分の仕事が与える影響を誇りに思っていた。真実を見つけ、公表し、世間の人々に決断させるという点をね。それに、ベンは非常に負けず嫌いだったから、ニューヨーク・タイムズにペンタゴン・ペーパーズの件をすっぱ抜かれた時にはどんなに悔しかったか想像がつく。彼は田舎の二流紙の記者にはなりたくなかったからね」とハンクスは続ける。