この「新しい未知の人生」により、障害が壊されることとなった。当時、記者たちはワシントンD.C.の高級クラブで政界の顔利きから情報を得ていたが、女性記者は入室を禁止されていた。キャサリン・グラハムがワシントン・ポストの経営者となることを誰も止めることはできなかったが、彼女は生き抜くために絶え間なく自己分析を行う必要があった。伝統的に女性は礼儀正しくあるべきだという保守的な環境で育ったグラハムは、信用を勝ち得るために必死の努力を続けた。後日、彼女は「相手に好かれたいという過度の欲求や、自分の行動は同世代の女性からすると許されないことだという固定観念に苦しんだ」と著書に記している。

ペンタゴン・ペーパーズの件で窮地に立たされた時、グラハムはまだ信頼を獲得しようとしている最中だった。ドン・グラハムは次のように語る。「母は非常に自分に自信がない女性だった。メリル・ストリープはその特徴を完璧に捉えていたと思う。会社のCEOや新聞の発行人にはうぬぼれた人物が多いが、母は常に自己不信に陥っていた」

現在ワシントン・ポストの上席共同編集者を務めるキャサリン・グラハムの娘、ラリー・グラハム・ウェイマウスも次のように語る。「専業主婦だった母にはつらかったと思う。それまでは私たちを買い物や公園に連れて行くだけの毎日だったから。慈善イベントを主催したことはあったけど、ジャーナリストの経験はなかった。父が亡くなるまでは仕事をしたことがなかったの。母自身が認めているように、何の経歴も持たない母にとっては非常に困難だったと思う」

それでもグラハムは、彼女の根性と決断力を周囲に証明する必要があった。彼女は言論の自由を支持し、社員にもそれを奨励すると率直かつ明白に表明したのだ。その後のウォーターゲート事件で、グラハムは政府による違法行為を追求し明らかにするよう社員に要求したことで知られている。しかし、ペンタゴン・ペーパーズ掲載の決断は、彼女と会社にとって非常に重要な分岐点となり、「Democracy Dies in Darkness(暗闇の中では民主主義は死んでしまう)」というスローガンで今は知られているワシントン・ポストが高名な報道機関としての地位を不動のものにする足がかりとなった。

本作では史実が外的なストーリーを形成しているが、ストリープが本作で特にフォーカスしたのはグラハムの成長という内的な物語だった。彼女はまず、ピューリッツァー賞を受賞したグラハムの回顧録を読むことからリサーチを始めた。「美しい文章で綴られた、心に訴えかける非常に感動的な自叙伝だと思った」とストリープは語る。「著書を読んで、彼女の子供たちや友人が私に教えてくれたとおり、最初からフォーチュン誌が選ぶトップ500企業の初の女性経営者である自信に満ちたキャサリン・グラハムだったわけではないことを知った。女性が育児や家事をきちんとこなす以外のことを求められていなかった時代に、彼女も自分に自信を持てなかった女性だったの。実際にあの時代を生きてみないと、今といかに社会が異なっていたかを想像することは難しい。私は経験したわ。女性の社会進出という時代の転換期を実際に体験したから、今回の役作りに生かすことができた。でもキャサリンは先駆者的な存在だから、リーダーシップを執ることにまだためらいもあったでしょうね」